« トランジスタの基礎 | トップページ | 今月のトラ技 »

2021年5月24日 (月)

ダイナミックマイクのロー抜け修理のはなし

ダイナミックマイクのロー抜けとは?

その1)古い、エレクトロボイスの RE-20 というビンテージマイクを預かって「治るなら修理して欲しい」とのこと。
症状は「コマ落ち」なる振動板の内側のイコライザーになっているプラスチックの円盤が、接着剤の劣化で外れて動き、マイクを動かすと振動板にあたってとてつもない爆音ノイズを出す症状がまず1つ。

 オーナーに断って、「振動板をカットしないと内側にあるコマ(イコライザー)を外せないので、多少の(結構大きいかも)特性劣化は勘弁」してもらって、使える程度に直そうと考えた。初めは接着剤を垂らすぐらいで止まるかと思ったが、内部に空洞があり、接着する面積が少ないので、一旦外さないと接着できないことが判り、さらに振動フィルムをカットしてこの問題に対処した。 Img_0201

コマを固定して、振動板を接着剤で端面のみ薄く接着し転がる音の爆音はなくなったので、テストしてみると低音が全然出てない。
どうやら、振動板についている振動コイルと内側の磁石との隙間に、ウレタンの分解した物やゴミがつまって外部の音、特に低音が拾えなくなるいわゆる「劣化の定番 ロー抜け」になっているようだ。

 対策1.しょうが無いから、まずスピーカーを近くで 50Hzぐらいで大音量で鳴らし、振動させれば動くようになるかと思い、数時間やってみたが、全くの効果無し。目で見ても振動板が動かないし、ちょっと無理だと諦めた。

 対策2. 発想を転換して「ダイナミックマイクって、スピーカーと同じ構造じゃん」とはたと考え、おそるおそる低周波発振器をユニットに繋いで鳴らしてみた。実際の音のあまり出ない領域 20Hz から 500Hz ぐらい動かして振動板が震えたり、共振音がするところで数時間放置してみた。こいつはちょっと効果があったみたいで、人の声がドナルドダッグだったのが、人間ぽくなってきた。でもまだいまいち...

 対策3. 今度は発振波形を正弦波でなく勢いのある矩形波にしてみたら、やたら大きな音で鳴ったので(マイクが鳴るというのも面白いが...)この波形で超低周波 5Hz で動かしてみた。すると振動板がポコポコ上下に動くのが判るくらい動くので、「しめしめ」とこの状態で6時間ぐらい動かしてみた。

 このマイクは内部ユニットをケースとウレタンスポンジに入れて止めてあるだけなので、奮発して高いウレタンを使ってケースに入れて組み立ててみた。
 基本的に単一指向性ユニットなので、きちんとケースに入れないと音質が判らなかったが、組み込んでテストしてみるとまだちょっと低域が足りないみたいだが、ボーカルとしてはどうせLOW CUT するので、まぁこんな物かと思って「改善品」として納入。はじめの爆音ノイズからしたら使える程度にはなったかと思う。

その2)また、外の人から ロー抜けの、鯨マイクなるZENNHIZER MD421 なるマイクがやってきた。

Img_0339 

今度は修理前の特性を取っておこうと、ヘッドホンに密着させてホワイトノイズで測定したのがこの写真。

Scrshot-20210209-115510

500HZ 以下が素晴らしいほどLOW CUT されていて、100Hz で 20dB 以上落ちている。50Hz以下はヘッドホンの実力もあり、あまり正確では無いかと思うが、全く出ていない。

 このマイクに前回と同じように、対策3を行った。今回は内部ユニットを出して振動状況を確認しようと思ったが、ユニット外すネジがシリコンゴムの様な物で止めてあったので、外して同じようにシリコンゴム加工出来ないので、外すのは止めてもっぱら音を聞きながら最小限のドライブで振動させるようにした。

 次の写真が 6時間後の特性(ヘッドホンの出力レベルの違いで、スケールがちょっと狂った)

Scrshot-20210221-102302

500Hzからダラ下がりだった特性が、200Hzぐらいに盛り上がりを見せ、100Hzも 対500Hzでは ほとんど変わらなくなった。
50Hzぐらいも500Hzとくらべても 10dB 程度の下降でヘッドホンの特性が出ているのかもしれない。
 AudioTechnica のマイクと比べるとまだLOWが出ていないようだが、こもりがなくてすっきりした音なので、これはこれで良いのかなと思う。

 その後 24時間ぐらい上記対策3とエージングしてみたが、特性的にはあまり変化無かった。

総じて、ムービングコイルの固着による LOW 抜けは完璧にではないが、使えなかったマイクがボーカル用程度には使えるように復活出来たので、世の中のもったいないLOW抜けビンテージマイクの復活には貢献できるかなとおもった。

|

« トランジスタの基礎 | トップページ | 今月のトラ技 »

トラブル対策」カテゴリの記事

コメント

はじめまして、国内外で活動を行っております。ミュージシャンのDAIと申します。

これまでステージでビンテージのゼンハイザーMD421を使用してきたのですが、古いものということもありマイクケーブルを抜く際に3ピンのうちのピン一本が断線し抜け落ちてしまいました。

抜けてしまったピンは手元にあります。

また、もう使用できないMD421を別でもう2本待っておりパーツの交換用として使用できるとは思います。

ボーカルマイクとして歌を通して沢山の方に元気を届けさせて頂いてきたマイクです、どうしてもこのマイクを復活させたいと思いながらも修理して頂ける方を見つかることができず

MD421を修理して頂ける方を探し続け「須津技術研究所」様のブログに辿り着きました。

MD421の修理を依頼させて頂くことは可能なのでしょうか。

どうかどうか、ご返答よろしくお願い致します。

投稿: 勝又大輔 | 2024年5月23日 (木) 09時26分

DAI さん コメント拝見しました。
メールでご返事します。

投稿: SUDOTECK | 2024年5月23日 (木) 10時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« トランジスタの基礎 | トップページ | 今月のトラ技 »