APDの動作のはなし
APDの動作とは
APDとは[ Analog pre-distorter ]で、前置アナログ補償器と訳される。
では何を補償しているのかというと、アンプの歪みを補償しているのです。
アンプの歪みとは
右図のように、アンプに信号を入力すると増幅された出力が出てきます。このとき最大出力電圧(VP)(電力)以下だったら、きれいな正弦波として歪みのない信号となります(Normal ...緑)。
しかしこの出力をオーバーする信号を得ようとしても、出力が飽和してちょうど±VP付近で頭が抑えられたような波形となって歪んでしまいます。
この波形は奇数次の高調波やIM歪みとなって、信号の帯域の外に歪みとなって出てしまい、携帯電話の電波などでは隣のチャンネルに妨害を与えたり、自分の信号の変調波がおかしくなってしまいます。
それならば、もっとパワーを出せるアンプを使えば良いのですが、パワーを出すためには更に増幅デバイスを大きなものにしたり、複数のアンプを並列にしたりして電力の消費量も上がってしまい、効率が悪くなってしまいます。
このようなピーク出力が多いのは実は最近の OFDMなどの高速通信時の変調波の特徴ですが、変調波のタイミング的にはピークになるのはごく僅かの時間ですが、そのピーク波形が歪んでは困るので、たまにおこるピークのために大きなアンプを用意するのは非効率的です。
入力に工夫をした
のがAPD(前置補償器)で、右図の(with APD)黄色い波形のように、ピーク時の波形をあらかじめ大きめにしておけば、そのぶんピーク時に丸められてもきれいな波形となるようにしたのです。
これをアナログ的にやっているのが APDです。このリンクで、ダイオードをつかった回路の原理を説明しています。この技術のおかげで消費電力を増やすこと無くパワーアンプのピーク出力を上げることが出来たのです。
このようなピークを伸ばすことが出来るのは、増幅デバイスが完全にピークでクリップするのでなく、徐々にでも出力が伸びているからです。リニアリティを定義する P1dB という値がありますが、これは出力がリニア的に伸びる基準値から 1dB コンプレッションして下がっている値をさしています。ですから、ここからすこしはまだ出力が伸びる余地があるのです。最近の GaN-HEMT などはこの P1dBでなく P3dBといって3dB下がるときのパワーを定義していますが、これらはダラダラと入力をいれれば出力が伸びていく特性があるため、これら APDなどの補償技術に向いている素子と言えます。
現在はデジタル変調が主流なので、デジタル的に変調波を入力側で補償しているのがデジタルプリディストーターです。これは DSPなどで演算して行っています。
これら技術や、今はやりのドハティ回路などでパワーアンプの効率をあげているおかげで、小さなスマートフォンがなんとか電池が持たせながら高速通信を実現できているのですね。
--------------------------参考文献 -------------------------------------
| 固定リンク
「アナログ」カテゴリの記事
- MIDAS Venice Mixerの修理(電源編)(2024.12.05)
- MIDAS Venice Mixerの修理(2024.12.04)
- 真空管のはなし(2024.05.21)
- パワーアンプ RAMSA WP-1200A の修理(2023.08.06)
- BOSE Power AMP 1701 の修理の話(2023.07.15)
コメント