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2012年6月22日 (金)

PLLのスピードアップのはなし

PLLのスピードアップとは
 PLLの重要な性能はまずノイズ性能ですが、基準周波数漏れのスプリアスやロックの安定性も重視されています。例えば、多くのチャンネルをサーチしたりするためチャンネルを素早く変える必要のある分野では、ロックのスピードが重要になっています。
ハード的には
Speedup_d
 ロックのスピードは、通常比較周波数となるチャンネルステップが小さいと近傍の比較周波数のスプリアスが近くなるので、VCOをドライブするループフィルターの時定数が大きくなると共にロックするまでの反応速度も遅くなってしまいます。
 そこで、右図のように出力のCRフィルタを構成する抵抗に、両極性に繋げたダイオードと小さな抵抗値をシリーズにした回路を並列に加えます。この回路は変更しようとするオペアンプ側のVc とフィルタチャージ側のコンデンサ電圧 Vt との差がダイオードの順方向電圧 Vf よりも小さいときはこの 47kΩの時定数で動作し、十分なフィルタの効果を得ていますが、いったんチャンネルが大きく変わるときなどに Vcと Vtとの差が ダイオードの順電圧 Vf を超えるとダイオードがONとなり、これにつながった 100Ωと 47kΩが並列になった時定数となり、短い時間でコンデンサーをチャージすることが出来ます。(図の赤い線がダイオード効果)
ダイオードが両方はいっているのは高くなったとき、低くなったときに対応するためです。
ソフト的には
 以前 多バンドの周波数をサーチ受信する「スキャナーラジオ」の開発をした際、このPLLのロックスピードに悩まされました。時定数を早くすればロックが早くなりそうですが、逆にリンギング現象が起こり、なかなか希望周波数に安定しないで、受信判断が出来ないことが多くありました。かえって少し遅いくらいの方が受信するには適していましたが、周波数が大きく離れた場合にどうしても遅くなってしまうので、この回路が大変需要でした。当時はショットキーバリアダイオードが無かったので、ゲルマニウムダイオードで動作させていました。
 この頃、「周波数によってロック電圧がだいたい判っているのだから、D/A変換であらかじめ電圧を切り替えて出力してやれば早くなるのでは?」と考えていたのですが、当時は D/A もメモリも高かったので実現には遠かったですね。
 現在は PLL ICにはチャージポンプへの供給電流を設定変更できるものがあります。「周波数切り替え時は電流を増やして充電速度を上げておき、ロックしたら電流を減らしてノイズを下げる」なんてテクニックが使えますが、今はあまりハイスピード切り替えの要求が無いのでこの機能はあまり使っていませんね。

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コメント

はじめまして。こんばんは。
とても良い記事をこんなに沢山ありがとうございます。
先日PLL方式のSGを修理したのですが、こちらの記事の知見が役に立ちました。
http://ttrftech.tumblr.com/post/40899697165/
お礼まで。

投稿: TT@北海道 | 2013年1月20日 (日) 23時31分

TTさん
コメントありがとうございます。
お役に立てて光栄です。
ブログ拝見しました。SGを解析・修理しようとするなどパワフルですね。私も昔MAC SE/30のリセット不具合(いわゆるシマシマック)の原因解析でCPUのリセットラインを追って電解コンデンサー不良を見つけたこともありましたが、今はなかなか解析するまでの元気がないですね。
 *MAC 使いの様ですが、ブログで取り上げている RTLドングルって TVチューナー用USBモジュールがソフト受信機になるってことですか?
機種限定のようですが、MACで遊ぶにはおすすめはありますか?よかったらアドバイスください。
 *あとブログを見ていたら飛行機のリアルタイム運行表示サイトがあるんですね!
航空無線は30年前スキャナー受信機を開発していた頃よく聞いていました。
http://www.flightradar24.com

投稿: SUDOTECK | 2013年1月21日 (月) 09時49分

お返事ありがとうございます。SG修理は、あまりに残念だったのと、回路鑑賞を兼ねて解析してみました。結果的にたまたま原因を探り当てることができました。
SDR系のツールはWindowsが多いのですが、私はMacでやっています。SE/30ですか!ウチにも何台か68k macを保存してありますが、もう動かせないかもしれませんね。
RTLドングルとは、いわゆる蟹印RealtekのRTL2832Uチップを使ったUSBチューナです。30M-1.5G程度まで任意の周波数を受信可能なのでなかなか強力です。国内販売されているワンセグ用のものもありますが、DVB-T用のものが使いやすいです。チューナチップにいくつか種類がありますが、R820Tが良いと思います。これをキーワードに探すといろいろ出てきます。私はebayや中国通販で輸入しています。時間はかかりますが送料無料なので。例えば以下のようなものです。
http://www.ebay.com/itm/170942168690
http://www.aliexpress.com/item/FM-DAB-USB-DVB-T-RTL2832U-R820T-With-MCX-Antenna-New-Version/707740785.html
安価なのですがESDに弱く、結局何台も買う羽目になっています(笑)。
またドングルそのものは本来Macには対応していないのですが、libusb+librtlsdrで直接チップをコントロールするので、いずれのRTLドングルもwin/mac/linux関係なく使えます。
flightradar24は世界各地で有志が受信したADS-Bのデータをサーバで共有して配信しているようです。iOS用のアプリもあったりして、航空無線系コミュニティはとても熱いですね。私はちょっと試しているだけですが。
ではまた有益な情報楽しみにしています。

投稿: TT@北海道 | 2013年1月21日 (月) 21時35分

はじめまして、加藤と申します
突然、本題に入る不躾をお許しください

実はコアックスのカップラーラインで90°3dbハイブリッドを作ろうとするのですが上手くいかず一週間程 苦闘しております どうしてもうまくいかないのですが…
詳しい参考文献等ありましたら教えてもらえませんか?
とても急いでます
よろしくお願いします

投稿: ガチャピン | 2013年3月11日 (月) 09時00分

ちょっと今日は多忙で参考文献見つけられないのですが、本ブログの
http://sudoteck.way-nifty.com/blog/2010/05/post-f762.html
セミリジッドケーブルのはなし
をまずは参照ください。
1/4λ長さに短縮率0.63をかけて切っていますか?
具体的に困っている点をメール頂いてもかまいません。
sudoteck@gmail.com
です。

投稿: SUDOTECK | 2013年3月11日 (月) 09時24分

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