ダーリントントランジスタの罠のはなし
ダーリントントランジスタの罠とは
ダーリントントランジスタは大電流が流せて高電圧にも使え、外部出力にはもってこいのトランジスタで、TD62084など8個入ったICは便利で、LED駆動やリレー駆動等に多く使われています。
しかしながら、ちょっと困った特性があり、時々トラブルを起こします。
ハード的には
右図はダーリントントランジスタユニットで28Vの電源を ON/OFFするためのNPNトランジスタを制御しようとした時の回路です。実はこの一見問題ない回路に罠が仕組まれているのです。動作させると、出力は ONしないか、10V程度の中途半端な出力しかしないのです。
この回路は MOS-FETのゲートにソースよりも高い電圧(36V)を加えることで、Vgs = +8V となってON する回路で、動作的にはソースフォロアーとして働いています。NPNトランジスタは ONすることでこのゲートの電圧を 0Vにしてドレイン電流を下げて、 Vgs = 0Vとなって電源OFFさせる働きをしています。このトランジスタが完全に OFF しないとゲート電圧が上がらずに電圧出力が出来ないわけです。
ではどうしてトランジスタが OFF しないのでしょうか?
それはダーリントントランジスタ接続ではコレクタとエミッター間の ONしたときの電圧は、通常のトランジスタ1本の 0.3V程度でなく、0.9V〜1.5V程度にもなってしまいます。そのためこの電圧をそのままベースに加えるこの回路ではトランジスタが ONしっぱなしになったのです。
右図はダーリントントランジスタをシュミレーションするための回路ですが、コレクタ抵抗を 100Ωとして電流を流していますが、入力には 0V/+5Vのコントロールで行っています。
この回路を動作させたのが次のグラフの赤色の線です。トランジスタがONしても 0.9V程度ありますね。
これはダーリントントランジスタの2個目のトランジスタが ONするための Vbe(0.6V)が前のトランジスタのコレクタ飽和電圧(0.3V)と加わった電圧が初段のコレクタに無いと次段のトランジスタのONが確保出来ないため、この電圧になってしまうためです。
これを防ぐにはどうしたら良いかというと、全段のトランジスタのコレクタに別電源から 0.9V以上の電圧を供給すれば良いのです。
図は全段のコレクタを 1kΩの抵抗で別々に取った回路です。この回路の特性は前のグラフの緑色の線で示されています。
ソフト的には
最初の回路で動作させるにはどうしたら良いでしょう?一番簡単なのはダーリントントランジスタでドライブするのでなく、CMOSなどでドライブするのが良いですね。その際、+36Vからの 10kΩは不要になります。そのままで動作させるにはトランジスタの B-Eに抵抗をつけますが、計算してみると390Ωぐらいを入れないと確実にOFF出来ないようですね。
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コメント
全段ですか?
投稿: | 2017年10月30日 (月) 16時34分
失礼しました。全段でなく
前段
Q1のことですね。
ご指摘ありがとうございました。
投稿: SUDOTECK | 2017年10月30日 (月) 18時05分
SUDOTECH様
初めてコメントさせていただきます。
先日ダーリントンTr.を用いてステッピングモーターのドライブを行った際の話になります。
ダーリントンTr.としては、STA471Aを利用しました。
ステッピングモーターの定格は5V0.5Aです。
5V電源を利用し、Tr.のスイッチングでモータを駆動させようとしました。
スイッチングとしては正しくないのですが、コレクタ電流が0.3Aとなるようにベース電流を設定しました。
増幅度を2000、ベース電圧3.3V、ベースエミッタ間電圧1.8Vとして計算し、対応する抵抗を利用しました。
その際に、トランジスタが正常にスイッチングしませんでした。
常にオフになっていました。
ベースエミッタ間電圧(GNDから初段のTr.のベースまで)も、0.6V程度になっていました。
今回はコレクタエミッタ間電圧を考慮していなかったのですが、それでも駆動しない理由がわかりませんでした。
もしよろしければ、ご教授よろしくお願いします。
投稿: | 2018年9月 2日 (日) 17時41分
単純に Ic =0.3A なので増幅度2000として、各トランジスタの B-E間電圧を0.6Vとして計算するとR1は ( 5V-0.6V-0.6V)÷(0.3A÷2000)= 25kΩ となりますが、
STA471Aを調べると、このダーリントントランジスタは上記の回路図で言うと、R4=3.5k ,R3 = 200Ωとなっています。もし 5Vを加えて ONさせようとした場合は最低でも R4の両端に 0.6V R3の両端に0.6V必要です。ここで R3は2段目なので、考えないとしても、初段のベース電圧は R4に 0.6Vかけなければならないので、 0.6V ÷ 3.5k = 0.17mA余分にベース電流は必要です。
これと最初の計算の 0.3Aの 2000分の1を加え、5Vかけた場合は R1 = (5V-0.6V-0.6V) ÷ (0.17mA+0.15mA) = 12KΩ となります。最初の電流だけの計算の半分にしないと動かないことになります。
スイッチングの場合はさらに余裕を見て2倍以上流せる設計の方が良いでしょう。4.7KΩぐらいが安心ですね。
投稿: SUDOTECK | 2018年9月 2日 (日) 20時52分
とてもわかりやすい解説をありがとうございます。
どうしても動作しない理由がわからずにモヤモヤしていたので、助かりました。
今後もこちらのブログを頼りに、上手くいかない部分を質問させていただくことがあると思いますが、よろしくお願いします。
投稿: 犬 | 2018年9月 2日 (日) 23時10分