PIN ATT のはなし
PIN ATT とは
PINダイオードは高周波で順方向電流値によって抵抗が変わります。これを利用した高周波のアッテネーター回路を PIN ATT と呼んでいます。
ハード的には
図の上側はブリッジドT型ATT回路です。単純な直列抵抗型のATTと違って可変した場合でも入出力のインピーダンスを50Ω近くに保とうとする工夫がこのような回路になっています。回路ではコントロール電圧がない場合(0V時)に最小減衰量とするため、通過用ダイオードをバイアスする Vccが必要です。コントロールポートに電圧を加えると、通過ダイオードのカソードの電圧が上昇し、通過ダイオードの電流が減り抵抗値が増えます。それと同時にコントロール側のダイオードに電流が流れ、2つの50Ω抵抗の反対側をGNDに落とす働きをします。
下側の図はπ型ATTの回路で、コントロール電圧が0Vの時は最大減衰量となっています。GND側の2つのダイオードがONして入出力がGNDに落とされています。この場合PINダイオードのON抵抗が入出力のインピーダンスとなりますので、マッチングを取って減衰量を犠牲にするか、減衰量を優先してマッチングを犠牲にするかの設定を選んで電流値を決めます。コントロール電圧をかけてゆきますと通過ダイオードの抵抗が減るのに従ってGND側のダイオードの抵抗が増えますので、相対的に減衰量が減ることになります。
ソフト的には
回路上減衰量を可変してもダイオードのGNDからの電位が Vccの半分程度になり、通過する信号レベルが大きくなってもVccやGNDで信号がクリップしないような工夫があります。入力信号のレベルによって信号のピーク値を計算しておき、十分高いVccで運用する必要があります。
参考文献-------------------------------------------------------------
トランジスタ技術SPECIAL (No.88)
7章「高周波ダイオードの使い方」に PIN SW とともに PIN ATT の詳しい解説がされています。高周波ダイオードのスペックなども紹介されており、ダイオード全般の理解しやすい良書ですね。
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コメント
はじめまして。
もしかしたらMWEでお会いしているかもしれません。(今年は残念ながら参加しておりませんが)
いくつか動作が理解できなかった点があるので教えて下さい。
1.PINダイオードは順方向電圧を流すと「順方向」抵抗値が増減するのですか?
2.ブリッジドT型で「コントロール側のダイオードに電流が流れ、2つの50Ω抵抗の反対側をGNDに落とす働きをします」50Ω抵抗の反対側をGNDに、というのがどのような経路で生じるのかがわかりません。またシャント抵抗間の1000pFはどのような役割を果たすのですか?
コントロール電圧によってシャントPINに電流が流れて出力側負荷抵抗に電流が流れ、シリーズPINのカソード側の電圧が上がるのでシリーズPINに流れる電流が減って抵抗値が下がる、のは理解できました。
3.Π型の「GND側の2つのダイオードがONして入出力がGNDに落とされています」のGNDとは交流的に、という意味ですか?交流的な場合はシャントの1000pFを通して、ということでしょうか。特に出力の部分がどうGNDに落ちるのかがいまいち原理が想像できないです。
4.これからRFを一から勉強していくにあたり、有用な方法論はありますか?文献と機材はなんとか入手出来たのですが、どの分野から手をつければ良いのかで途方にくれています。先輩からは自作で無線機を作ってみてはと言われましたが……幾つか基本的なアナログ・デジタル回路とPICの勉強はやりました。基本的な測定は可能だと思います。
発振と変復調回路に今は興味があります。
アドバイス頂ければ幸いです。
投稿: bigben | 2015年12月 5日 (土) 01時52分
1.電流が増えると「高周波的な」抵抗値が減ります。
2.GND側に1000PFが繋がっているダイオードの抵抗値が減ると、高周波的に1000PFを通じてGNDに対して抵抗値が減ることになります。
3.高周波的に説明しています。1000PFを通してGNDに落ちるという意味で合っています。GNDに1000PFを通じてダイオードで入出力端がショートされる意味です。
4.作って楽しい分野が良いですね。私は電波関係はワイヤレスマイクから入りました。FM放送帯の発振器とバリキャップでの変調などは PLL の基本ですから、発振回路は奥が深いけれども良いかもしれません。
投稿: SUDOTECK | 2015年12月 5日 (土) 07時11分
素早いお返事ありがとうございます。
1.順方向電流でコントロールしているのはI層領域付近の空乏層だから、高周波的な抵抗値の変化は入力信号の方向がアノード→カソードでもカソード→アノードでも起こっている、と解釈してもよいでしょうか。
2.把握しました。シリーズPINの抵抗値が増大するので信号が51Ωと1000pFを経由するようになり、その過程でシャントPINのカソード→アノードを通してアノード側の1000pFを通して高周波的にGNDに落ちるのですね。
3.1で入力信号の方向がアノードカソード関係ないとすると出力側のPINダイオードの高周波的な抵抗も落ちてるので1000pFを通してGNDショートですね。理解できました。
4.PLLは是非とも身に付けたいです。原理としては理解しているのですが、業務で少しだけループフィルタの計算をした程度で、実作の経験はありません。会社ではアナログデバイセズのICをよく使いますが、独学用としては最初はディスクリートで組むのが良いのでしょうか。もしPLL用ICを使う場合、入門用にお勧めのICはあるでしょうか。持っている機材では1GHzくらいまでなら各種測定は可能です。
投稿: bigben | 2015年12月 5日 (土) 09時26分
最近はマイコンを使わないでPLLの設定が出来るICは見つからなくなりました。位相検出やフィルタなどの動作を見るには低い周波数のほうがオシロでも観測しやすいので、74HCT4046 などはVCOや位相検出器が入っているので判りやすいかと思います。
ディスクリートの発振器を作ってみたいのでしたら、秋月電子のFMワイヤレスマイクキットなどが面白いです。http://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-00086/
発振器を4分周すれば 4046にも繋げて実験できるでしょう。
投稿: SUDOTECK | 2015年12月 6日 (日) 09時44分
何度もありがとうございます。PINダイオードATTの理解は何とか出来たようです。
確かにマイコンから設定するICばかりですね。自分もそこに敷居の高さを感じています。
4046はCD4046というのを持っているので、これで低い周波数のを一度作ってみます。
ちょうどワイヤレスマイクキット買ってたような……19kHzパイロット信号が出力ピン直後なら矩形波のようなので、ここから線を出して4分周すればよさそうですね。
投稿: bigben | 2015年12月 6日 (日) 17時55分