ハイサイドスイッチのはなし
ハイサイドスイッチとは
MOS-FETなどで負荷をドライブする場合、負荷のGND側をON/OFFする場合がありますが、負荷に電流を供給する電源側でON/OFFする場合、電圧がHighの部分を入り切りするので、ハイサイドスイッチと呼ばれます。
コイルやインバーターのトランス負荷などをドライブする場合はプッシュプル出力でドライブしますが、その電源側をハイサイド、GND側をローサイドと呼んでいます。
ハード的には
インバーターなど大規模なスイッチングの場合、専用ICやドライブトランスで駆動する場合は高耐電圧品が比較的種類の多いN-CH MOS-FET ( 2SK xxxx タイプの物)が使われますが、素子の保護のため電源側でスイッチしたい場合は回路が簡単な P-CH MOS-FET ( 2SJ XXX )がよく使われます。
ここでは右図のような回路の定数を設計してみます。使用するMOS-FETはON抵抗が 40mΩ程度の 2SJ339を例にあげます。 この FETは Vdss = -60V なので、安全を考えてこの半分ぐらい 30V程度までなら使えそうです。コイルなどをドライブする場合に、スイッチングによって負荷からの逆起電力や共振などで思わぬ高電圧が出力端にかかりますので、耐圧には注意が必要です。ここでは GaAs-FETなどをスイッチングするので電源電圧は+12Vで設計します。
次にこのFETがONするにはどのくらいの電圧をかける必要か見てみます。データーシートにはよく[4Vdrive]、とか[5V Switching]、などうたわれています。
このFETでは 4V Driveで、データーシートには 15A流した場合でも
Vgs = 4V で 40mΩ
Vgs =10Vで 30mΩなので 5Vあれば十分と判断します。
高い耐圧品では 10V以上が推奨されているFETもありますので、データーシートをチェックしましょう。
次に抵抗値の算出ですが、データーシートには高速でスイッチングする測定回路があり、回路例で Gate-Source 間には 50Ωが入っています。
これで R1 = 50Ω としてみますと、ここに Vgs = 5Vをかけるとすれば
5V ÷ 50Ω = 0.1A 流れることになります。
ドライブトランジスタのコレクタ-GND間のON電圧を 0.3Vとすれば、 R2には
12V - 5V -0.3V = 6.7Vかかることになります。
それで、 6.7V÷ 0.1A = 67Ω ...≒68Ω となります。
ここで注意が必要なのが抵抗の消費電力です。 R1は 5V x 0.1A = 0.5W R2は 6.7V x 0.1A = 0.67W となり 500mWクラスではオーバーしますので、1Wクラスの抵抗が必要ですし、2個合わせて1W以上の熱を発生しますので、基板の温度上昇も考えなくてはいけません。しかしながら、高速でスイッチングする必要がない場合はトランジスタの小電流ドライブ電流程度で計算します。
仮に5mA程度でドライブするならば、
R1は R1 = 5V ÷ 0.005 = 1kΩ となります。
R2は R2 = 6.7V ÷ 0.005 = 1.3kΩとなります。
簡易的にはゲートドライブ電圧は 5Vを越えても問題ないので R1 = R2 = 1kΩ としても問題ないと考えます。この場合 Vgs = (12v-0.3v)÷2 = 5.85V 消費電力は各々 5.85v x 0.005A=29mW となります。
ソフト的には
もっと高い電源電圧で GaN-HEMTのドレイン電圧 +50Vなどの場合ではどうでしょう?計算上では R1は同じですね。
R2は R2 = ( 50v-5v-0.3v)÷ 0.005A =8.9kΩ となります。
チェックすべきはこの抵抗の消費電力ですが、
(50v -5v-0.3v)x 0.005A= 223.5mW となり
1/4Wの抵抗ではぎりぎりになりますね。1/2W程度にします。またMOS-FETのVDSSは 100V以上あるのは勿論ですが、見逃すのはスイッチングするトランジスターの コレクタの耐圧( Vceo )です。普通のものは 30vとか 50v程度が普通ですので、これを十分余裕のあるデバイスに変更する必要があります。
追記
高圧の大電流のアプリケーションでは P-CH MOS-FET の種類が少なく、N-CH のデバイスを使う場合がありますが、その際注意しなければいけないのが、+電源側接続がドレインになり、ソース出力になることです。ON抵抗が 数10mΩなので、ソースに出力する場合は電源電圧とほぼ同じ電圧になりますが、ゲートには通常、ソースよりも +5Vか +10V程度高い電圧をかけないとトランジスタが ONしません。そのため、ゲートをドライブするための別の高電圧が必要になりますが、最近のハイサイドドライバーICは、ブートストラップ回路を使ったり、自分で DC/DC コンバーターを内蔵し、ゲートドライブ用の高電圧を作る物が多くなってきました。そのような訳で、N-CH を使う場合はドライバ用の ICを使う方がよいでしょう。
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コメント
車内で使用する電源のON-OFFにN-MOS(IRLB3034PBF)を使用したハイサイドスイッチ作りたいと思っております。
理由は約30Aの容量が必要でP-MOSではON抵抗による発熱が無視出来ない為です。
N-MOSを完全にONするにはゲート電圧をソース電圧より10V程度高い電圧必要とされています。
しかし、車内は12Vの単一電源のみでこの電圧をどのように確保するかで悩んでいます。
簡単な素子で解決できる良い方法は無いでしょうか。
動作速度はキャンピングカーの「バッテリープロテクター」としての用途ですので高速でのON-OFFは必要ないです。
お勧めの素子名と配線図があると助かります。
投稿: 深川 隆幸 | 2013年11月10日 (日) 17時00分
コメント投稿ありがとうございます。
ちょっと時間がないので、ブログでの回路例は
すぐに書けないので、部品の紹介をします。
以下の絶縁型 DC/DC コンバーターを使って
出力の GND を 入力の +12Vに接続します。
すると、この DC/DC出力は、元のGND からは
+12V +12V = +24となり、ご希望の電圧を
ゲートに加えることが出来るかと思います。
ゲートには100Ωから 1kΩ ぐらいの直列抵抗を
入れて下さいね。
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-06533/
投稿: SUDOTECK | 2013年11月10日 (日) 18時47分
早速の回答ありがとうございます。
私も絶縁型DC-DCコンバーター「SUS1R51205」を使用した回路を考えていました。
今日のブログに載せましたので見て頂けますか。
良く分からず書いてみたので問題点がありましたらご指摘願います。
投稿: 深川 隆幸 | 2013年11月10日 (日) 20時25分
URLを忘れました。
http://blogs.yahoo.co.jp/tkykfkgw/12255972.html
投稿: 深川 隆幸 | 2013年11月10日 (日) 20時26分
>思わぬ高電圧が出力端にかかりますので、耐圧には注意が必要
素子の耐圧云々ではなく保護用にフリーホイルダイオードを追加すべきポイントかなーと思います。
上側でNchを使う場合の定石はフローティングゲートです。
ディスクリートで作るよりもゲートドライバに任せるのが吉ですねー。
投稿: ゆーぢ | 2023年8月29日 (火) 01時32分
ゆーぢさんこんにちは
最近のパワーデバイスは、プシュプル制御で内部にショットキーダイオード内臓が多いので、知らず知らずダイオードが入っていますね。PWM制御で上側 NCH制御 などはICドライバが有効ですが、静的 ON/OFF 制御ではDC/DCなど使った方が簡単ですね。
投稿: | 2023年8月29日 (火) 10時08分