シリーズ電源の設計を考える
シリーズ電源の設計とは
いろいろな分野がありますが、今回はアナログ電源などに使われるシリーズ電源の設計について考えてみます。電源には各種ICが使われており、TO-220型などの放熱板に付けて使用するタイプや基板上に実装するSMDタイプもあります。シリーズ型は入力電圧を制御素子で電圧を下げて安定化しますが、スイッチング型でなくリニア素子で電圧を下げるタイプは内部で入出力差に比例した電力損失があるので、注意しないと高温になったり、出力不足になったりするので、注意が必要です。
ハード的には
代表例として 5V 0.5A のSMDタイプ TA78M05Fで考えてみます。このICはほぼ 7mm角の大きさで、基板上に表面実装します。図では下側に入力と出力、上側(素子の裏面全面にありますが)にGND電極があります。 データーシートを見てまず、
1)絶対最大定格をチェックします。最大入力電圧は 78M05Fでは 35Vということが分かります。これ以上は使えませんので、電流値がある程度一定ならば入力に抵抗などを入れて電圧降下させる・ツェナーダイオードを入れるなどの方法で高い入力電圧に対応することも出来ます。
2)消費電力 Ta=25℃で 1W ,Tc =25℃ で 10Wと書いてあります。いったいどちらが本当でしょう?これは後で確認します。
3)動作接合部温度ですが、これは内部のはなしですが冷えている場合はほぼ同じですから、-30℃から 150℃ということは -30℃より低い場合は動作させて暖めて-30℃以上にしないと、通常使用は出来ないということです。-30℃以下では電解コンデンサーの容量も少なくなりますが、ICのコールドスタート(冷え切った条件からのスタート)には注意が必要ですね。
4)熱抵抗ですが、接続部-ケース間が放熱器をつけた場合に重要ですが、今回基板実装では基板の放熱性能が確定しませんので、計算は別項目で書きます。右上に基板実装時のパターン例を示します。両面基板でしたらスルーホールビアをGND端子下に数多く配置して、裏側のパターンやケースにも放熱するための手法です。GNDが広ければかなり放熱面積がとれますし、内層があればさらに利用できます。
5)電気的特性ですが、出力電圧の項目を見て下さい。 Voutは最小 4.8V 標準 5.0V 最大 5.2Vと±0.2Vも差があります。通常の製品はほとんど ± 0.05Vぐらいには入っていますが、もしこれくらいの誤差のものが入荷してきても文句は言えないので、A/Dコンバーターの基準電圧など精密な電圧が必要な場合は、精密電圧源ICなどを使う必要があります。
6)負荷安定度の欄にある条件もチェックしましょう。 5mA < Iout <500mA とあり、最低電流が記載されている場合は注意が必要です。全く電流が流れない場合に出力が出なかったり、不安定なICもあります。 いろいろ項目がありますが、最後に重要なのが
7)「最小入出力間電圧差」です。ここには Tj = 25℃時に1.7Vとあります。これは内部ジャンクション温度25℃での規定ですが、広い温度変化にも対応するためには、この電圧よりかなり高めの 3Vぐらい確保するのが普通です。もっと少ない電圧差で設計したい場合は LowDropタイプのレギュレーターICを選択します。
8)次に周辺回路の確認です。測定回路例にある小容量のコンデンサーはセラミックコンデンサーで実装可能ですが、電解コンデンサーが入っている場合は必ず使用するようにしましょう。データーシートによっては内部抵抗が小さい大容量のセラミックコンデンサーは発振しやすくなったりするので、使用できないことが書いてあるものもあります。
9)最後に使用上の注意を読みましょう。出力側に電解コンデンサーなどが大量にあったりして電源断時に出力側に電圧が残り、逆方向に電圧がかかる可能性があると、ICが壊れますのでダイオードを追加する必要があります。
それでは電力損失の問題を考えます。まずデーターシートの表を見ます。いちばん外側のラインはこの温度で理想的に放熱した場合のリミットですので、最大定格の Tc=25℃時に 10Wというのがこのラインです。またいちばん内側の「単体」のラインがありますが、これは放熱せずICそのままの状態でのリミットです。1Wになっていますね。そしてちょっと実用的なのが 30x30x0.8mmのラインです。これはセラミック基板を使ってやはり結構理想的な条件なので、普通のガラエポ基板などではこれ以下になります。どのラインも周囲温度が上がると許容損失は減り、150℃では 0になります。周囲温度が 70℃というスペックでは6割ぐらいになってしまうことに注意しましょう。
次に動作中の電力損失の計算です。仮に規格いっぱい 5V 0.5Aで使うとすると入力電圧+3Vして 8V入力とすると、IC内部では (8V-5V) x 0.5A = 1.5W となり、単体時 125℃/W x 1.5W = 190℃となり最大ジャンクション温度の150℃を越えるので、全く使用できません。理想的に放熱しても 12.5℃/W x 1.5W =19℃ 程度内部温度が上がってしまいます。右上の表で30x30x0.8では許容電力が単体の2倍程度なので、60℃/W とみれば 60℃/W x 1.5W = 90℃で 周囲温度(基板上の温度)が60℃ぐらいまでなら大丈夫そうです。周囲温度が高温状態で動作しなければならない条件ではさらにその分温度が上がるので電流をもっと下げる必要があります。基板実装して実験で電流・電圧を測定し温度計で端子の温度などを測定して基板のおおよその熱抵抗を推測して、計算する必要があります。
ソフト的には
経験的には許容電流の半分ぐらいまでにして使えば比較的温度上昇が少ないかと思われます。それ以上例えば 0.5Aめいっぱい使いたいときは、供給先が複数なら2つのICで分けて供給するとか、T0-220の TA7805などの1Aタイプにして、ケースにICを実装するとかの方法にします。また電流が少ないが、DC24Vなどの高い入力電圧のためICの損失が大きい場合は、ICの入力側に抵抗を入れて電圧を落とすか、小型の DC/DCコンバーターやもう1段シリーズレギュレーターを入れて入力電圧を下げるなどの手法をとります。設計時に予備の電源ICパターンを空いた場所に作っておくのも最初の設計では必要ですね。
| 固定リンク
「基本を学ぶ」カテゴリの記事
- 最新トラ技と年末年始に読みたい本 3点(2020.12.30)
- LEDを光らせるはなし(2020.05.01)
- 英語のはなし(2014.12.17)
- トランジスターとフェルミ準位のはなし(2012.07.27)
- フェルミ準位のはなし(2012.07.25)
コメント