FM検波ICのはなし
FM検波ICとは
FMトランシーバーによく使われた Motorolla の MC3357 〜 MC3361が有名ですね。
FM 検波のはなしにも書きましたが、ミキサーや局部発振器、クラドラチャ検波からスケルチコントロールまでIC化したICです。
ハード的には
今回MC3357を使った TRIO TS-670 の回路を例に説明します。
画像が小さくて見にくいので、SCHEMATICS にものせておきます。
1-2ピンは局部発振回路用のクリスタル発振回路です。IF 10.7MHz の時に 10.245MHzを発振させ、16ピンに入った10.7MHzの信号はミックスダウンして455kHzは3ピンに出力されます。TS670の場合は 1stIFが 8.33MHz OSCが 9.285MHz IFが 455kHzとなっています。 MC3361の頃には入力周波数が20MHz程度まで拡張されています。
次に5,6ピンを入力としたリッミッターアンプで455kHzを増幅します。AM/FMのトランシーバーなどはこの5ピンからまだリミッターがかかっていないAM用の信号を取り出して増幅・検波します。Sメーターなどの検波にもこの方法が用いられました。
FM検波の出力は9ピンです。ここにはまだ高域のノイズが出ていますので、このノイズを10ピン-11ピンのアンプで増幅してスケルチ(FM特有の信号がない時の大きなノイズをカットする機能)に利用します。雑音を検波した出力を12ピンに入れて、制御出力 13ピンから出た電圧でトランジスタのベース電圧をコントロールしています。14,15ピンはスケルチで信号を閉じる時にONになるスイッチですが、ON抵抗があまり低くなくて音が漏れたりして使われていないことが多かったですね。
このICの使いこなしで問題なのは、3,4,5ピンに使われるセラミックフィルターのコモンがGNDでなく、電源端子だと言うことです。FMのリミッターアンプは結構電流を使うので電源が不安定になるとつられてIF入力もおかしくなり、発振したりS/N比が悪くなったりします。この電源の電解コンデンサーはデーターシートには書いてありませんが、必須で8ピンの近くに、0.01uFはフィルターの近くに配置するなど配置にも苦労した覚えがあります。
ソフト的には
スケルチ回路はけっこうクリチカルで、ダイオードで検波することから温度特性が難しく、低温でスケルチが開きっぱなしになったりハンディートランシバーに使う場合は、温度補償など難しかった覚えがあります。 しかしながら小型のICの出現で小電力トランシーバーなど普及出来たのでしょう。
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コメント
初めて投稿します。
MC3361、非常に懐かしいです。
MC3361は当方が日本モトローラの
デザインセンターに在職中の1981年頃に
回路設計とレイアウト設計をやりました。
MC3357はアメリカのアリゾナ州のモトローラで
設計されましたが、日本の顧客から低電圧(電池2本, 3V)で
動作するのを開発して欲しいと要望があり設計しました。
内部の合計素子(Tr, R, C)は180個でした。
また、入力周波数は60MHzでも動作するように設計しました。
オーム社で発行した「エレクトロニクス」という月刊紙の
昭和58年12月号に「広がる通信機用ICの応用範囲」と
いう表題で記事を書きました。
この月刊誌は既に廃刊になっていますが、国会図書館には
ありますのでよかったら参考にして下さい。
投稿: MC3361設計者 | 2020年6月30日 (火) 07時16分
コメントありがとうございます。設計者さんからお話を聞けるなんて光栄です。設計では60MHzまでとはビックリです。確か50MHzのシングルスーパーの記事を見て「ホントかなー」と思った事を覚えています。当時私はLCD制御できる8Bitマイコンを使ったハンディスキャナーレシーバーのハード(デジタル。アナログ両方)を開発していました。本当に消費電流をいかに削るかがネックで、MC3361には大変お世話になりました。まだSMD化してなくて挿入部品で作って結構苦労しました。ダブルスーパで27MHzから 520MHzまで受信できましたが、お客からはFMバンドが受かるがワイドFMに対応してないので「音が割れる」などのクレームがありましたが、もっぱら AirBandやPilice用だったので仕方ありませんね。後継機にはアナログ音声スクランブルに対応したりしました。「エレクトロニクス」は当時読んでいたかも知れませんが、探してみます。
投稿: SUDOTECK | 2020年6月30日 (火) 09時16分
MC3357は電源電圧が変動すると多くの特性が変化しました。
それを防ぐためにmc3361はバンドギャップレギュレーター回路
で定電圧回路を作り電源変動による特性変化を防ぎました。
またRFアンプの部分に電流を増やし動作周波数を上げました。
また、MC3357よりもMC3361のトランジスタのftは数割
上がったのでこれらも特性向上に起因したかもしれません。
確か、MC3357は40MHZ前後だった記憶が?
当時最初はDIpだけでしたがその後SMDでも出しました。
アナログスクランブルですか?当方も掛け算器ICとエンコーダIC
とデコーダICを使ってシステムボードを作った記憶があります。
それとAMステレオ用IC(MC13020)にも携わりました。
1970年代はオーディオIC, 1980年代は通信機用IC,1990年代は
パソコン関連IC,2000年以降はIT関連に従事しましたが
激しい変化を感じた時代でしたが、いい時代でした。
投稿: | 2020年7月 1日 (水) 17時37分
1980年代は東芝など日本のメーカーもリニアIC作ってましたが、だんだん少なくなって来て選択にも大変な時期でした。私も80年代後半からは国内BSチューナーやMPEG ICを使ったデジタル衛星チューナーなどの開発でアナログよりはデジタルへ向かっていったのですが、デジタル時代に向けて活気のあった頃でしたね。独立する前の最期の仕事がまた10数GHzGaN-HEMTアンプだったりして超アナログ関係だったのもまた楽しめた仕事でした。
投稿: SUDOTECK | 2020年7月 1日 (水) 21時53分
1980半ばまでは日本の半導体は勢いがありましたが
1990年以降は厳しくなり現在はほぼ全滅ですね。
半導体は昔良かった会社(世界の会社も含めて)は
今はほぼ全滅、今はブロードコムやクアルコム、
マーベルなどネットワーク関連のICが主流ですね。
今はトランジスタでなくほぼCMOSだらけなので
トランジスタの出番は少ないですね。
DSP, FPGA,ArduinoやRaspberry Piと市場は一変ですが、
これから10、20年後どうなっているか気になる所です。
AI,ロボット,Iotーーー。それと全自動自動車や空飛ぶ自動車の
実現化が待ち遠しいです。
投稿: | 2020年7月 2日 (木) 21時42分