HEMTとドレイン電流のはなし
HEMTとドレイン電流とは
HEMTは以前説明したRFFETですが、今回パワー用のHEMTのドレイン電流について考えてみます。
ハード的には
右図は EUDYNA社の EGNB010MKという10W出力の GaN-HEMTの出力特性のグラフです。このようなデーターシートはSパラメーターもそうですが、標準のドレイン電流というのが存在します。この図の場合 Ids(DC)=100mA とありますが、これは無信号時(アイドル時)に設定したドレイン電流です。GaN-HEMTは通常A級で使うことはなく、AB級で使用するデバイスなので入力信号が増えるに従って、ドレイン電流も増えていきます。ここで 10W出力( 40dBm)時の電流を求めてみましょう。グラフで 40dBm出力時は入力は 27dBmのところですから Drain Effは 53%ぐらいと読み取れます。効率=(RF出力-RF入力)÷消費電力 なので ( 10W - 0.5W)÷ (50V x XA )= 0.53なので計算して X = 0.36 A となります。アイドル時に 100mAであったドレイン電流が、10W出力時は 360mAまでふえることになります。それではアイドル時の電流をもっとへらすとどうなるのでしょう?GaN-HEMTはドレイン電流を減らすと信号が少ない時にゲインが小さくなって増幅しなくなります。それでも大きな入力が入ってくると上記同様に電流が流れ、パワーを出力します。C級に近い動作ですね。逆にドレイン電流を増やすとどうでしょう?電流を流すことによって直線性の改善が行われます。しかしながらピークパワーはあまり変わらず、熱が増えますので、大出力の素子で電流を多く流すのは素子の熱的限界から冷却が大変になります。
GaN-HEMTはあまり高帯域で使わないならばピークパワーが出ますので、最大パワー規格の10分の1ぐらいで使い、OFDM用などへの低歪み高効率のアンプに利用されます。
また、EMC用などに高帯域のアンプに使う際は効率の良いアンプとしてフルパワー状態で利用されますが、帯域を広くするため帰還や周波数特性の調整で単体のゲインが落ちて来る点、フルパワーで使うため比較的ゲート入力パワーが大きくなってしまいます。このような場合以前のGateBIASのはなしのようなゲートバイアス回路(下図)を使って低インピーダンスでゲートを駆動しないとRF入力信号によってゲートバイアスが深くなり(この場合マイナス側に深くなる)ドレイン電流が減ってしまい、パワーが出なくなったりします。図中のダイオードによって整流されるのですがダイオードを取り去ると逆にRF信号でゲートが+方向に振られ、ドレイン電流が増えすぎるトラブルも起きます。やはりある程度ゲインを確保して過大な入力にならないように設計することが重要です。
ソフト的には
データーシートのドレイン電流は GaAs-HEMTなどはA級で使うことが多いので、指定される電流値で問題なく動作するでしょう。しかしながらGaN-HEMTを使いドハティ回路や高効率のAB級など動作点が変わる回路の場合は実際にカットアンドトライでやってみるしかないかと思います。その際重要なのは放熱条件や使用温度などに注意して、最大どのくらいのドレイン電流を流せるかを計算しておくことです。効率が思ったより悪くて、実際にはパワーを出した時に許容熱損失量を超えていたなんて場合があるので注意が必要です。
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