3次歪みのはなし
3次ひずみとは
高周波信号を増幅する際、直線性が悪いと波形が歪みます。これを周波数スペクトラムで見ると基本波の他に高調波(ハーモニックス)成分が増えてきていることが分かります。3歪みとは2トーン信号で評価した場合、2トーンのすぐ両側に出てくる歪み成分をいいます。
ハード的には
ここでは直線性を測定する際によく使われる2トーン信号で説明します。2つの信号が入力された場合、理想的なアンプではそれ以外の信号が出てくることはありませんが、周波数ミキサーなどに見られるように非直線性がある場合、出力には2つの信号の和( f1+f2)と差(f2-f1)の2つの信号が現れてきます。 また、2つの信号それぞれの高調波 2f1 , 2f2 も出て来ます。ここで3次歪み信号とはこれらの基本波 f1,f2 と高調波 2f1 ,2f2 の信号が上記の様にミックスされて f1 ,f2 の間隔と同間隔で f1 の低域側に 2f1-f2 が、f2の高域側に 2f2-f1 が生成されます。3次歪みは2次高調波のように単に飽和領域レベルを上げたりしただけでは改善されず、A級動作にしたり、デジタルプリディストーションなどの手法で直線性も良くしなければ改善できないことから、3rdIMD や IP3などと呼ばれる指標で評価され、特に WCDMAやOFDMなどのピーク成分が高い信号に使用するアンプの性能を見るうえで大変重要な性能です。
3次歪みは2倍波と基本波で生成されるので、基本波のレベルが 1dB 上がると、3次歪みは3倍の 3dB 増えるような性質があります。入力信号に対して出力レベルをdBで等間隔にグラフに書き、3次歪みの出力レベルも同じようにプロットした場合に、出力特性は傾き1の直線とすると、3次歪みは傾き3の直線が書けます。3次歪みは低い入力レベルでは数10dB下の値でも出力が飽和領域に近くなってくると3倍の傾きで大きくなってきます。実際にはあり得ませんが、出力レベルのグラフと3次歪みの直線を延長して延ばすとある1点で交わります。その出力レベルが OIP3[Output Intercept Point 3rd ]、入力レベルが IIP3 [ Input Intercept Point 3rd ]となります。
ソフト的には
3次歪みを良くするには
1)飽和領域を使わない .... 余裕あるおおきな出力のパワーアンプにする
2)直線性を良くする ...... 電流をながしてA級で使う
などですが、そうするとどうしても発熱の大きい効率の悪いアンプになってしまいます。携帯基地局など、性能実験に使う時は良いですが、量産時には大問題です。ですから最近はデジタルプリディストーション技術やドハティ回路、電源変調などを使って効率を追求していますが、逆にOFDM波のピーク成分をデジタル的に下げるピーククリッパーなどDSPを駆使したデジタル・ソフトウェアの開発も重要になってきているかと思います。
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コメント
すみません、質問させてください。
3次歪の評価を行う場合、2波の周波数間隔はどのように決定すればよいか、アプローチの方法を教えて頂けないでしょうか。
無線受信機のLNAのIP3を評価しようと考えています。
よろしくお願いいたします。
投稿: スダ | 2011年1月25日 (火) 16時26分
基本的には帯域内の性能を測定するので、3次歪みが仕様帯域内に入っている周波数間隔での測定と考えられます。例えばW-CDMAならば、チャンネル帯域 1.5MHz〜5MHzなので、1MHz程度の間隔で良いかと思います。あまり間隔が狭いとスペアナでのRBWを小さくしなければならないので測定する掃引が遅くなります。
一度実験のため、帯域内で100KHzから 10MHz程度まで周波数間隔を変えて測定してみてはどうでしょう。帯域内ならば測定結果はほとんど同じになると思います。
また 1MHz間隔にして仕様帯域の下限・中央・上限でのIP3を測定するのもバンド内の性能バラツキをチェックするためには良いと考えます。(デバイスの入・出力マッチングのチェック等に有効です)
*記事中に書いてないので補足しますが、スペアナで測定する場合、まだ出力がクリッピングしない直前で、IP3がある程度出ているレベルで、基本波を P ,IM3のレベルを Pmとすると、OIP3は以下の式で計算できます。
IP3(dBm) = P + (P - Pm)/2
これはPmが基本波の3倍で増えることを利用して、P ,Pm測定時のレベル差( P- Pm)の1/2 増えたところがOIP3になるのを利用したものです。
投稿: SUDOTECK | 2011年1月25日 (火) 20時23分
回答ありがとうございました。
勉強になりました。
投稿: スダ | 2011年2月 7日 (月) 08時58分